この店にあるものにはすべて「物語」がある

温泉津の温泉街を歩いていると、ちょっとハイカラなお店『路庵(ろあん)』があります。路庵は、町並み保存の指定を受けた同地区で、Uターンをした小川知興さんが古民家を保存改修してカフェとしてオープンしました。
小川さんの熱い想いが実現し、静かな町中に新たな憩いのスポットが誕生しました。路庵で、小川さんの「故郷へのこだわり」を聞いてみました。

念願のカフェ

静かな温泉街の中にあるお店の雰囲気は昭和の時代を思わせます。懐かしい感じのガラス戸を開けて店内に入ると、待っていてくれたのが、小川知興さん(30歳)です。
小川さんは、3年前に家業である小川商店を継ぐため、妻の雅代さんとともに温泉津町へUターンしました。学生時代からカフェでアルバイトをし「30歳になるまでに自分のカフェを持ちたい!」という夢を持ち続け、昨年6月に念願のカフェ『路庵』をオープンしました。お店の名前は、道端にたたずむ風流な建物という意味から名付けたそうです。
路庵は、100種類以上の焼酎が並ぶカウンターと、こだわりの調度品が印象的なお店で、小川さんは本業のかたわら、このカフェの店長もしています。家具類は学生時代から買い揃えていたものもあります。 

仲間の協力

オープンまでには仲間の協力がありました。温泉津の若者で作るまちづくりグループ「温泉津ものづくりネットワーク」を立ち上げ、メンバー達とともに、温泉津の陶土を使って焼いたコーヒーカップや焼酎の湯割呑、畳縁の素材のコースターなど「温泉津に由来のもの」を作り、カフェで使っています。
また、2人の従業員もIターン者で、この町の魅力にひかれ、温泉津町にやって来ました。

故郷へのこだわり

路庵は建物自体にも、こだわりがあります。重要伝統的建造物群保存地区保存修理事業の第1号として民家を修理したものです。修理は文化庁の指導を受けながら進められ、使える部材はそのまま利用し、屋根瓦も混ぜ葺きにするなど、歴史情緒のある町並みにあわせ、落ち着いた雰囲気にしました。
最後に、路庵で焼酎を出す理由を教えてくれました。「明治や大正時代、北前船で温泉津焼の『はんど(水がめ)』を九州の有名な焼酎の蔵元に運んでいたんですよ。そのはんどは今でも使われていて、それで仕込んだ焼酎が、この温泉津に戻ってきてるんです」と、まるで自分のことのように熱く物語ります。
今後、市内で2号店を計画中。「温泉津だけ、とか考えていません。僕の故郷はこの『大田市』ですから」と広い視野で地域を見つめています。

cafe 路庵  http://www.cafe-roan.jp/


この記事は「どがなかな大田市です!!」Vol.1(2005年12月発行)に掲載されたものです。
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